「私の頭が悲鳴を上げている~ストレスと負の連鎖~」を読みましたのでネタバレを紹介します。
3人の作家さんによって描かれた作品です。女性が病気(若年性アルツハイマー、記憶障害、若年性うつ)になり始めから、周りが気づいて助けて生活していく内容になっています。
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「私の頭が悲鳴を上げている~ストレスと負の連鎖~」のあらすじ・ネタバレ
本作は3作品を収録したオムニバスとなっています。
・記憶の向こう側
・夕焼けオレンジ
・ルーズ・コントロール
こちらの順番でネタバレをご紹介します!
記憶の向こう側のネタバレ
離婚した夫の再婚相手には、子供ができないから、娘の・歩を引き取りたいと言ってきた。
それに動揺した真紀は、コーヒーに砂糖を入れたことを忘れて、二度目の砂糖を入れてしまっていた。
それを見ていた再婚相手は真紀にこう言った。
「真紀さんて、相当の甘党なんですの?
それとも…ボケちゃってるんだったりして…」
この一言で、真紀の生活は大きく変わっていく。
「あちらさんの話ってやっぱりアレかい?子供が出来ないから歩を、引き取りたいってかい?」
実家のクリーニング屋に帰ると、母親の第一声だった。
「違うわよ。それにもしそんなこと言われても、私は歩を渡す気なんて全くないから…」
「なんだい。これで私の孫もいよいよ山田医院の跡取りだと思ったのに…」
母は父を亡くしてから、働きどおしだったから、私が山田医院の跡取り・亮一と結婚が決まった時、“世の中悪いことばかりじゃないね”と喜んでいた。
しかし、亮一が外で女性をつくって離婚して戻って以来、働く気もなくし、歩が山田医院の跡取りになることばかり夢見ている。
そんな母に、引き取りたいと言っているなんて絶対に言えない真紀。
「歩、今日も幼稚園楽しかった?」
「うん」
「痛っ…」
真紀は歩の迎えに行ったところで、ズキンと頭に痛みがきた。
この頃、たびたび頭痛に襲われている…そんなことを思っていた。
「相沢さーん。このスモックありがとうね。仲良しのお友達とお揃いでマリも大喜びよ」
「家もよー。幼稚園行くのが待ちきれないみたい」
「しかも手作りとは思えない程」
歩の仲の良い友達のお母さんに話しかけられた。歩を入れて四人の子に、同じスモックを徹夜して作っただけあり、喜んでくれてよかったとほっとする真紀。
「ママ、きょうみんなでマリちゃんちにいくの。あゆみもいくー」
「でもママ仕事あるし…」
困っていると、マリちゃんのお母さんがいいと言ってくれ、その言葉に甘えることにした真紀だった。
すると“お揃いのバッグも作ってもらえないかしら?”と。
さすがに少し疲れているからと、どうしようか悩んだ真紀だったが、歩が友達とキャッキャッしている姿を見て、了承した。
やっと出来た仲良しグループだから、少しくらい無理してもいい関係を保ちたいからと…。
「セーター出来てる?控え伝票なくしちゃったけどわかるわよね」
「はっ…はい」
そう返事をするも、顔はよく知っているが名前が全く出てこない真紀。
「あらー林さん久しぶりー」
母の声で名前を思い出した。数十年来の常連さんの名前をど忘れするなんて…そう思った真紀に
「ボケちゃってるんだったりして…」
そんな声が聞こえた気がして振り返ると、亮一の再婚相手が外にいた。なんであんな所に…。
「あっあれよ、あの赤いセーター」
林さんの声に一瞬目を離したら、再婚相手はいなくなっていた。疲れがたまりすぎていると思った真紀。
「あとこれ、あさっての2時頃配達してくれる?」
真紀は気を引き締めようと思い、忘れちゃいけないことはメモをとって、目立つところに貼った。
これでよし!そう思っていた真紀だが、
「ちょっと真紀、何やってんのさ。今日の2時に配達あったんじゃないのかい?」
母に言われ気づいた。すっかり忘れていたのだ。
「ちょっとぼーっとしてただけ、今行こうと思ってたのよ」
「ついでに歩のお迎えも行っといで」
アレ持っていこうと、置いておいたところになかった。
「お母さん、アレどこやったの?」
「アレって何よ」
「アレよアレ。私が作った…一つずつラッピングしてあったでしょ」
アレを思い浮かべるもバッグの名前が出てこない。
「いやあね。物の名前まで忘れちゃったの?」
またあの声が聞こえて、振り返ると庭に彼女が…。なっなんで彼女が庭に…そう思っていたら母が来た。
「真紀、あんたが探してるのこれじゃあないのかい?」
「そっ…それよりお母さん。にっ…庭に…」
「えっ…庭?庭がどうかしたのかい?」
しかしそこには誰もいなかった。
真紀が探していたのは玄関にあったが、彼女は自分は置いていない、それにあの女も確かに庭にいた、なぜ庭にいたのか不安になりながらお迎えに行った。
「相沢さんこんにちは」
「あ…みなさん丁度よかった。頼まれてたやつ出来ました」
真紀は全員分のバッグを渡した。
「ねぇ…これどういうこと?」
「え?」
楽しみにしていたお母さんたちだったが、だしたバッグは持つところも取れていてボロボロの状態だった。
作った真紀本人も驚いていた。
「いやならいやって言ってくれればいいのに…」
「ちっ…違います。私…知りません。私はちゃんと…」
「お返しするわ」
真紀は自分は知らないと、ちゃんと作ったと言おうとしていたが、バッグは返され、子供を連れて帰ってしまった。
「マリちゃんたちかえっちゃったー。きょうあそぼーっていってたのにー。みんなかえっちゃったー」
「…歩。まっ…マリちゃんたちご用があるんだって、だからまた今度ねって…」
「ごようなの?」
泣いていた歩にそう言い聞かせた。
どうしてこんな目に…。まさかあの再婚相手が家に入ってきて…。真紀はそんなことを考えていた。
それからみんなとは気まずくなってしまい、歩は元気がなくなってしまった。
そんな姿を見た真紀は“なんとかしなくちゃ…、なんとかしなくちゃ…”とどうしようか考えていた。そこに…。
「ちょっと!どうなってんのよこの店は!今日の3時に配達頼んだのに、いくら待っても来やしない」
客の言っていることにハッとした真紀。壁にメモを貼っていたのに、忘れていたのだ。
「すっ…すいません。すぐに用意を…」
「もういいわよ!
変な噂が立ってる中、昔のよしみで来てあげてたけど、もう二度と来ないから!」
ーーピシャッ
怒って帰ってしまった。
どうしてこうなっちゃうの?変な噂っていったい…真紀は不安になっていた。
「ねぇ真紀。最近おかしいよ。疲れかもしれないし、一度医者に診てもらった方がいいんじゃないかい?」
「お母さん」
「母さんいい医者知ってるんだよ。ほら名刺まで持ってんだ…」
そう言って見せた名刺は、亮一の所の名刺だった。
「なっ…なんでこんなもの持ってるのよ。まさか亮一さんと会ってるんじゃ…」
「だっ…だってお前、様子も変だし、客もめっきり減っちまうしさ…」
なんてこと。母親と亮一が連絡を取り合っていたなんて。そう思ったとき、真紀は気づいた。
みんなでグルになって、私を陥れようとしているんだ。混乱させて病気に仕立て上げ、歩を取り上げようと…。
そんなことを考えていた時、歩が泣いた。
「ひっく。ママのかおこわい~。ママおこってる~」
「大丈夫よ。ママ怒ってないから。
歩は何も心配しなくていいんだからね」
真紀はそんなことさせない。私が歩を守って見せると決めた。
「みなさん、この間はすみませんでした」
真紀はお母さんたちに謝った。
「仲直りにあさっての歩の誕生会に来ていただけないでしょうか?」
「誕生会是非うかがわせていただくわ。そしてまた仲良くしましょうよ」
そして歩の誕生日にパーティをするので誘った。
「やったー。歩のパーティーみんなくるー」
「よーし、ママすごいケーキ作ってみんなを驚かせちゃうからね」
真紀は笑顔になった歩を見て、歩の笑顔を守らなくちゃいけないとさらに思ったのだ。
歩の誕生会の当日
歩のとびきりの笑顔が見れると、真紀はケーキを作り始めた。
しかし…
“ケーキってどうやって作るんだっけ?”“卵を…”
「痛っ」
その時頭痛がした。
“痛みでケーキの作り方が…”“デパートに買いに行こう”
「嘘おっしゃい。本当は作り方を忘れちゃったんでしょう」
その声に振り返ると、再婚相手がいた。
「きゃああ…」
真紀が叫んだあと、気づくと彼女はいなくなっていた。震える真紀。
”どこかに隠れたのね”
混乱させられちゃだめだと、今日のパーティーは失敗できないと、歩を二度と泣かせないと、真紀はデパートにケーキを買いに行った。
ケーキを無事買え、なんとかパーティーの準備はできるとホッとした真紀だった。
”後は急いで帰るだけ”
そう思った真紀だったが、自分がどこにいるのかわからなくなってしまった。
タクシーで帰ればいいと思うも…
「うっ…家までお願いできませんか?」
「奥さーん。家じゃわかんないよ。住所言ってよ。住所」
「だっ…だから…きっ…木があるんです。近所に…。そっ…それは大きな木で…」
真紀は住所がわからず、覚えていることを伝えるも、そんな情報だけじゃ目的にいけないとタクシーは行ってしまった。
”私を家までつれてってえぇ…”
そう心の中で叫んだ真紀。
やっとの思いで家にたどり着いた真紀だった。家の前では母と歩が待っていた。
「どこいってたのよ…。みんなもうかえっちゃったよ…。おともだち…みんなかえっちゃったよ」
歩は泣いて言った。声をかけようとしたとき
「どうした歩、泣いたりして」
亮一と再婚相手が後ろから声をかけてきた。
再婚相手を見るなり真紀は、くってかかった。
「やっぱりあんたがやったんだ。私から歩を奪うために!」
「おい、やめろ真紀。どうしたんだよ」
「真紀やめなさい!お母さんがお二人を呼んだんだよ」
真紀は母の声に動きを止めた。お母さんがもやっぱりグルなんだと。
そこで母は涙を浮かべていた。
「お前…本当に気付いてないんだねぇ…」
クリーニング屋は入って、真紀は初めて気が付いた。お店の壁やレジ周りはメモ用紙でびっしりなことに。そして異常なのは自分だと。
「おそらく相沢真紀さんは、若年性アルツハイマー病だと思われます。進行具合は初期から中期にかけてでしょう」
病院に行って診断されたのは、若年性アルツハイマーだった。それも初期から中期に進行している。
「この病気で一番きついのは初期です。人に理解されない記憶のとぎれ、その不安と焦燥の中で、しばしば妄想も引き起こされます。その妄想は壊れていく自分を、元の自分に引き戻すための、悲しい手段なんですよ」
”あの地獄のような日々はアルツハイマー病が見せた妄想だったのか…。
私さえいなくなれば、もう歩は泣かなくっていいんだ”
真紀はそう思っていた。
その夜
「歩寝たよ。今夜はお前も疲れただろ。とにかくゆっくり休んで…」
--パーン
「何馬鹿なこと考えてるの!」
真紀の手には包丁が握られていたのだ。母の声に涙を流す真紀。
「歩のこと忘れてまで生きてくなんて出来ないよ!」
真紀は涙をボロボロ流しながら言った。
「…それでも生きてゆくんだよ。真紀…。忘れても忘れても、生きてくんだよ。それが歩に対して恥ずかしくない生き方ってもんじゃないのかい」
その言葉にホッとする真紀。
「そうだよママ。あゆみのことあんしんしてわすれてね。かわりにあゆみがママのことおぼえてるから、ずーっとおぼえてるから」
寝たはずの歩が起きて、涙を浮かべながら言った。
そして三人で涙を流した。
その後、歩にとって一番よいと、彼女のことを亮一夫婦に委ねた。そして真紀を気遣って、週に一度、歩を真紀のもとへ連れてきて来れる。
真紀の人生は、歩とともに歩む人生から、歩の成長を見守る人生に変わったのだ。
そんなある日、真紀は制服を着た、とてもかわいらしい女の子に会った。大きくなった歩だったが、真紀はもう覚えていなかった。
「おじょうさんおなまえは?」
そう聞くと、女の子はちょっとびっくりした後、にっこり笑って
「歩です。大好きなお母さんがつけてくれた名前なんです」
そう言ったのだ。
歩の瞳を見て、幸せな気持ちになってきた真紀は
“そうだきっとアレがあるからだ。アレよ…アレ。そう…あいよ…”
そう思ったのだった。
夕焼けオレンジのネタバレ
--ポトッ
「やだー潰れちゃった」
真奈は買い物袋に入っていたオレンジを落としてしまった。
「真奈、気を付けて。でもう~んすごいオレンジの香り…」
ママは注意しつつ、香りを堪能していた。
「ママ見てきれい…」
真奈の指さす方にはきれいな夕焼け空が。
「あたしこの夕焼けのこと忘れない。これからもっともっと強く生きる」
「そうね…ママも忘れない」
「ママがいれば安心だ。いじめっ子なんかに負けないよ!」
「ママがしっかり注意しておいたからもう大丈夫よ。ママはいつでも真奈のこと守るからね」
そうママは笑顔で言ったのだ。
しかし…ママは忘れてしまったのだ。交通事故で頭を打って真奈のことも今までの記憶を失ってしまったのだった。
「た…ただいま。真奈…ちゃん?」
病院から帰ってきたママは、真奈のことをよその子を見る様な視線で見ていた。
「こればママのカップ。これ…真奈が母の日にママにプレゼントしたんだよ」
「かわいい。ありがとう真奈ちゃん」
庭や真奈の部屋など家の中を案内しても、何も覚えていないママに、このままずっとなのかと不安になる真奈。
--ドサドサ
「キャッ」
真奈が靴箱を開けたら、中からごみが落ちてきた。そして後ろから
「お母さん退院したんだってね。記憶喪失になっちゃったんだって」
そう言ってもいじめっ子が笑いながら立ち去って行った。
ママに助けてもらったのに、この日を境にまた真奈へのイジメが始まったのだ。
半年前のある日
「一緒にやらなかったら、またトイレに閉じ込めるわよ」
「いやよ万引きなんて」
みんなの前で先生によく褒められる、そんな理由で真奈はイジメにあっていたのだ。そして万引きをするように言われた。
「ほら、あんたもやるのよ」
「できないよ」
一人の子がやったあと、強要してきたが断る真奈。その時真奈の名前を呼ぶ声が…。
「真奈⁉ 何してるのあなたたち」
ママは真奈がいじめにあっているとわかり、すぐに対応した。クラスメイトの親や先生の前で真奈を守ってくれた。しかしあの夕焼けを見た次の日に、事故にあい全てを忘れてしまったのだ。
ママは何か思い出せないかと、家の中を歩き回った。しかし、大切な子のはずの真奈のことすら何も思い出がない。
その時、真奈の部屋のクローゼットからボロボロのTシャツが見えた。
「ただいま」
「どうしたのその怪我」
真奈は足に怪我をして帰ってきたのだ。
消毒をし終え、ポンと軽くたたいたママに真奈は同じだと言った。
「ママは手当てが終わると軽く傷口をたたくの。ママ…いつもそうするの」
「真奈ちゃん。どうした?何かあった?」
悲しそうな顔をする真奈にママが問いかけるも、
「な…何でも…ない…」
そう言っても行ってしまった。
真奈は本当はこわくて助けてほしいが、以前のママと違うから自分で何とかしないといけないと思っていた。
ママは抱きしめたいが、自分の子だってことに自信がなく、わからなくなっていた。
「おお金?」
「持ってこなかったら、あんたが万引きしたって言いふらすよ」
真奈へのイジメはエスカレードしていた。
その頃家では--
「オレンジ…あの子好きだって言ってたっけ。すごい強い香り。オレンジの香り…」
ママはオレンジの香りをかいで、夕焼けの香りだと思ったのだ。
あの日あの時あの子と…あの子と夕焼けを見たと真奈の顔が浮かんでいた。そしてあの日のことを思い出したのだ。
“この夕焼け忘れない…。これからもっともっと強く生きる…”そう真奈が言ったことも。
「ウチへ帰ったらお金持ってくるのよ」
「いーや」
「どうせあんたのお母さん何もわからないんでしょ」
「バカになっちゃったんだから」
「「バーカ」」
嫌がった真奈に対して、ママの悪口を言ったいじめっ子たち。
--バシン!!
「ママをバカにするなっ」
真奈はいじめっ子を叩いたのだ。いいなりになるもんかと反撃にでた。
「万引きのことも、イジメのことも全部先生に言うわ。あんたたちのお母さんにも」
真奈ははっきりといった。いじめっ子たちは困惑している。
「マ…ママ…⁉」
そこにママがちょうどやってきた。そしていじめっ子に言ったのだ。
「あなたたちまだそんなことを…いい加減しなさいよ!」
いじめっ子たちはそそくさと逃げていった。
「思い出したの?もしかして真奈のこと思い出してくれたの…?」
「強くなったね真奈」
真奈の問いかけにそう言うまま。真奈とママと抱き合った。
「ごめんね。ごめんね真奈…」
謝るママからは、オレンジの香りがしたのだった。
ルーズ・コントロールのネタバレ
「今日から我々の仲間になる水川まさみさんだ」
「水川です。よろしくお願いします」
「零人君のママ?」
まさみは病院の調理室にパートに出た。そこで会ったのは、息子・零人が通う幼稚園のママ友・木下さんだった。
幼稚園入園にパート勤め、初めてのことばかりで不安なまさみの唯一の楽しみは、パソコンで絵を描くことだ。
「わーママじょうずー」
零人も喜んでくれている。忙しい毎日だが、まさみは気に入っている。
「ママ友達とピクニックへ行くから、そのチラシを作ってほしい…?」
ある日、木下に頼まれたまさみ。
「お願い水川さん。私を助けて!」
その言葉にまさみはチラシを作ったのだ。
ピクニック当日
「ピクニックのお誘いのチラシ良かったわ」
「絵がかわいいってうちの子が喜んでたの」
「今度は私にもイラスト描いて!」
ママ友たちに褒められ、喜んだまさみだった。
零人を探しに行くと、女の子・かのんともめ始めた。零人のボールをかのんが無理やり取ったのだ。
“かえして”と追いかけた零人から逃げたかのんが、ばったーんと転んでしまった。
かのんの泣き声に母親が駆け付けた。
「どうしたの」
「れいとくんがいじめた…。かのんのことつきとばしたのー」
「ちがうっ」
かのんのウソに違うと反論した零人だったが、母親は聞こうともしなかった。
「違います。零人は乱暴なんかしてません。私見てました」
まさみは零人の援護にでたが、かのんの母親はさらに声を荒げた。
「花音が嘘言ってるとでもいうの?だいたい現場を見てたなら助けなさいよ。サイテーの親ねっ」
「あの…っ!もうこれくらいにしませんか?せっかくのピクニックなんですよ。楽しく過ごしましょうよ!」
木下が間に入って、その場は収まった。
「おはようございます」
まさみは零人を送って行ったとき、ピクニックに来ていたママさんに挨拶をするもスルーされてしまった。かのんの母親には挨拶をしているママさんたちに、複雑な表情をした。
「無視されてる?」
パート先で木下に相談したまさみだった。木下は”気にしてたら負けよ!”と励ましてくれたが、まさみは気になってしまっていた。
その時“ごめんなさい…”とどこからか聞こえた。
だるくて何もしたくなく、夕飯すら作れずにいたまさみ。帰ってきた夫は罵倒するような言葉ばかりをはいた。
「オレは仕事でヘトヘトなのに、おまえはサボってたのか⁉」
「サボってなんかいないわ。気分が悪かったのよ!」
「今さら言い訳するな!」
まさみが何を言っても、言い訳にしか聞こえていない夫。
「もういい。零人と外で食ってくる。どうぞごゆっくり!」
「…勝手にすればっ⁉」
しまいには、零人と外で食べてくると、まさみを置いていった。
まさみは本当につらいのに、どうして夫は分かってくれないのかと思っていた。
しかし翌日には、不思議ほどスッキリしていて、いつものように仕事に行けたまさみだった。
ある日は甘いものを無性に食べ、嫌なことを忘れていた。またある日は、寝過ごし会社も幼稚園も遅刻した。
仕事中はボーっとしてミスを連発したり、いくら寝ても寝足りなかったり。
ママ友に会いたくなく少し遅れていったら、
「もっと早く来て下さいね!」
と母親失格だと言わんばかりに言われてしまった。
“ごめんなさい”またどこからか聞こえた。
手足が鉛のように重く、だるい。寝ても寝ても寝足りなく、食べるだけ食べてしまっているまさみ。
夫はそんなまさみを見て“ダメな主婦、ダメ母”となじった。それに対してまさみも感情をむき出しにして怒号するようになっていた。
またある時は、カミソリで自分の腕を切りまくっていた。
絶対におかしいとまさみは病院に行った。
「私が否定型うつ病?」
「普通のうつと違って、何か楽しいことがあると気分が良いのですが、夕方になると調子が悪くなり、過食や過眠、苛立ついて他人を攻撃するなどの症状を引き起こします」
「子供の頃、虐待や親からの愛情を注がれなかった体験を持つ人にも多いといえるでしょう」
“ごめんなさい”そう聞こえていたのは、子供の頃のまさみ自身の声だったのだ。
治療は薬を飲むこと、生活にリズムをつけ、毎日目標を持って生きることだそうだ。
家に帰って夫にうつ病だったことを話すも
「おまえは単にだらしないだけだ。病気だなんて嘘ついて言い訳するな!」
全く相手にされなかった。まさみは夫になんか頼らないと決めたのだ。
クスリのおかげか、若干の落ち着きを取り戻したまさみだったが、会社は休みがちになっていた。そして厳しい現実を突き付けられたのだ。
会社は容赦なくまさみを解雇したのだった。
仕事をして生きる張りを持ちたかったまさみだが、全部自分のせいだと思っていた時、零人がお味噌汁を倒したのだ。
「ごめんなさいっ」
謝った零人だったが、まさみはカーッなった。そして…
「あんたって子はっっ!!」
--パアアアン
思いっきり頬を叩いたのだ。そのいきおいでドンっと壁に頭をぶつけた零人はドサッと倒れた。
「おまえはそれでも母親かっ」
「おまえは母親失格だっ!!」
零人は幸い軽い脳震とうで済んだのだ。病院ので夫はまさみを叱った。
まさみは言葉を聞いて、窓から飛び降りようとした。
「何をするんだ」
「離して、死なせて。死なせてよぉっ。私なんかいない方がいい。生きてる資格なんてないのよ」
夫はそんなまさみを止めた。
「おまえがいなくなったら零人はどうなる。あいつの母親はお前しかいないんだぞ!」
「オレも零人もおまえがいないと生きていけない。おまえじゃないとダメなんだ。一緒に生きてくれ!!」
泣きながら訴える夫の言葉にまさみも涙を流した。
「うつのような心の病は当人にしかわかりません。これからは彼女を支えてあげてくださいね」
まさみと夫は一緒に心療内科に行った。
“愛情を持って接してあげて下さい”最後に医者はそう言ったのだ。
その夜、まさみは自分の幼少時代のころの話を夫にした。
父と離婚した母はいつも男を連れ込み、自分は邪魔者扱いだったこと、嫌われたくなくいつも顔色をうかがっていたこと、ママ友とトラブってからおかしくなっていたことを全て話したのだ。
それを聞いた夫は
「助けてあげられなくて本当にすまなかった。病気は一緒に治していこう…」
そう言ってくれたのだ。
その後、まさみは一進一退を繰り返しながら回復の道へと向かっていった。生活リズムが安定すると、楽しみだったパソコンもできるようになり、充実感を感じていた。
そんな時、木下が家を訪ねてきてくれた。思いがけないプレゼントを持って…。
「今度ポストカードお願いできる?やっぱりあなたのイラストがいいってみんなも言ってるの」
まさみに小さな光が差し込んだ。もう声は聞こえない。
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「私の頭が悲鳴を上げている」の感想
三つともいつ、だれでも起こりうる病気の内容でしたね。自分の知らない症状もあり、周りの理解もきっと十分ではないことを痛感します。
ストレスはみんな抱えて生きているので、何がきっかけで症状がでるかわからないのが、病気の怖いとこですね。
どの病気も家族や身近な人の支えがあってこそ、当事者も頑張れることがわかる内容でした。
病気について見直すのにいい漫画でした。
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